森田正馬さんの言葉から見出す「在る」という賜りもの
「何物も得なかったことが、最大の賜りものです。」
これは、精神科医・森田療法の創始者である森田正馬(もりた まさたけ)さんの残した言葉です。一見すると逆説的ですが、この言葉には深く、生きる上で大切な真実が込められているように感じます。
私たちは常に何かを求め、得ようとし、そして得られないことに苦しむことがあります。しかし、森田さんの言葉は、その「得られなかったこと」をこそ、最も大きな贈り物だと教えてくれます。
仏教の教えには、「諸行無常」「諸法無我」という真理があります。すべては移り変わり、常なるものはなく、確固たる「我(自分)」という実体もない、という意味です。
この中で何を見出すのでしょうか?それは、「無い」という虚無ではなく、「在る」という事実ではないかと思います。
すべては移り変わり、絶対的な「自分」という固定されたものはない、という真理の中にあって、それでも**今、ここに「在る」**という自分を捉え直す。
その「在る」という事実の中で、自分自身を生きて活かしきる道が見えてきます。
過去の不足や未来への不安に目を奪われるのではなく、ただ今を在る自分として、精一杯に生ききる。
森田さんの言葉は、その一瞬一瞬を生きる「在る」というシンプルな事実こそが、最も尊い賜りものだと静かに語りかけているのではないでしょうか。


