森田正馬の言葉から見出す「何物も得なかったこと」の価値
「何物も得なかったことが、最大の賜りものです。」
これは、精神科医であり森田療法の創始者である森田正馬(もりた まさたけ)さんが残した、深く示唆に富む言葉です。一見すると、何かを成し遂げたり、手に入れたりすることを否定しているようにも聞こえます。しかし、この言葉の真髄は、「求め、得ようとする心」から解放された境地にあると考えられます。
「無い」からこそ見えてくる「在る」もの
私たちはしばしば、何かを「得る」ことで安心や満足を得ようとします。一方で、仏教の教えには**「諸行無常」(すべてのものは常に移り変わる)や「諸法無我」**(すべてのものには不変の「我」はない)という真理があります。
これは、「すべては空(くう)である」という考えに通じます。つまり、永遠不変の「何か」を所有することはできない、ということです。
しかし、森田さんの言葉と仏教の教えが示唆するのは、「何も無い」という虚無ではありません。むしろ、「無い」と捉える中で、かえって「在る」という確かな実相が見えてくるのです。
「在る」自分を生ききる道
では、「在る」とは何でしょうか?
それは、過去でも未来でもない、「今、ここ」に存在する自分自身のことです。
- 飾ることのない、今の感情
- 今の場所、今の状況
- 今の自分にできること
「無い」と焦るのではなく、この**「在るという中で自分を捉える」**こと。無駄に求めず、あるがままの自分を受け入れること。
そこにこそ、自分を生きて活きる道が観えてきます。
私たちが本当にすべきことは、**「今を在る自分で生ききる」**こと。何かを「得よう」と躍起になるのではなく、「今、在る」というかけがえのない事実を最大限に活かすことなのです。
森田正馬さんの言葉は、私たちに求めることを手放す勇気と、今という瞬間の豊かさを教えてくれているのではないでしょうか。

